「マナティのパリ通信」by 岩本麻奈
~バックナンバー~
岩本 麻奈 MANA IWAMOTO
フランス パリ在住の皮膚科専門医
日本コスメティック協会代表理事
銀座TSUBAKIクリニック顧問医師
巡活マッサージ(R)テクニカルスーパーバイザー
コスメプロデューサー
美容ジャーナリスト
世界アンチエイジング医学会 会員
<代表的な書籍>
「パリのマダムに学ぶ生涯恋愛現役の秘訣」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
「日本女性のための本当のスキンケア」(洋泉社)
「女性誌にはゼッタイ書けないコスメの常識」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
「美の事典」(WAVE出版)
「Dr.Manaのすっぴん肌力」(講談社)
「Dr.MANAのそんな肌でいいのですか?」(講談社)
小学館「女性セブン」2015年7月23日号(26号)掲載

小学館「女性セブン」2015年7月30日&8月6日合併号(27号)掲載

小学館「女性セブン」2015年8月13日号(28号)掲載

小学館「女性セブン」2015年8月27日号(29号)掲載

小学館「女性セブン」2015年9月3日号(30号)掲載

小学館「女性セブン」2015年9月10日号(31号)掲載

小学館「女性セブン」2015年9月17日号(32号)掲載


小学館「女性セブン」2015年9月24日号(33号)掲載


小学館「女性セブン」2015年10月1日号(34号)掲載


小学館「女性セブン」2015年10月8日号(35号)掲載


小学館「女性セブン」2015年10月15日号(36号)掲載


小学館「女性セブン」2015年10月29日号(37号)掲載


小学館「女性セブン」2015年11月5日号(38号)掲載


小学館「女性セブン」2015年11月12日号(39号)掲載


小学館「女性セブン」2015年11月19日号(40号)掲載


小学館「女性セブン」2015年11月26日号(41号)掲載


小学館「女性セブン」2015年12月3日号(42号)掲載


小学館「女性セブン」2015年12月10日号(43号)掲載


13日の金曜日の夜。パリは大戦後最悪のテロ襲撃を受けました。襲撃現場付近は流行に敏感な若者たちのたまり場だったところ。春秋に富む多くはパリジャンやパリジェンヌが犠牲となったのです。
翌日の朝、非常事態宣言で不急不要の外出は自粛しなければなりません。マナティの家族は(わたくしを除いて)食べるったらないので、週末は食料買出しが不可欠です。「どうしよう?」、窓から見ると近くのスーパーは開いています。意を決して外出しました。
ところが、どこのお店も開いていますし、いつも通りに住人は買い物袋を提げて歩き、カフェテラスではお茶しているのです。「これはなんなの?」。怖いもの知らずなのか、ただ鈍いだけなのか。でも、政府がどう言おうと、自分の都合で行動するのは、さすがフランス人です。
そうではなかった。テロを恐れて生活するのは、彼らの思った通りになること。普段通りの日常生活を送ることこそ、市民がテロリストの脅しに屈していないことを宣言することだったのです。
19世紀のプロシアや20世紀のナチスの侵略に際しても、政府の命令によってではなく、パリ市民は各自の判断で戦いました。18世紀フランス革命の伝統もあります。パリに住むことの覚悟といった気持ちがあるように思いました。
パリは世界で唯一自他ともに「花の都」と誇っていい街です。甘い蜜に群がるのは善良な蜜蜂や蝶ばかりではありません。毒虫もいれば、虫を捕える鳥も集まってきます。
人々の希望が集まり、夢が実現される都です。光が強ければ陰も深くなります。美しい田園風景にテロが似合わないのは、人が少ないだけでなく、政治や経済など人間生活の欲望や野心の影が希薄だからです。
都に住む選択の中には享楽の毒が含まれています。歓楽極って哀情多し、楽しさを享受する代償としての責任を引き受けなければいけないのかもしれません。しかし、夢をみることや希望を叶えられことは、人間にどれだけの勇気を与えてきたことでしょう。
パリに住む市民の一人として、わたくしも心意気をともしたいと思います。どうかみなさん、静かに見守ってください。
※写真:撮影 松永もえ 襲撃現場に置かれるキャンドル


小学館「女性セブン」2015年12月17日号(44号)掲載
